司法書士
吉原有規
司法書士吉原合同事務所代表。
モットーは「納得できる相続を増やす」こと。相続専門の司法書士として、誰に相談したらよいかわからない悩みを丁寧にお聞きし、一緒にベストな解決策を考えることで、「納得の相続」を増やしていくことを目指している。
趣味は旅行とグルメ。自分の直感で選ぶと大体失敗することから、旅の前には情報を徹底的に調べ、実際に行った人の声や情報を参考にしながら評価が高いところを巡っている。
[相続発生後の手続き]
代償分割の仕組みから、代償金の具体的な決め方、現金がない場合の対処法、遺産分割協議書の一括払い・分割払いの記載例まで、実例を交えて解説します。
代償分割とは、遺産分割の方法の一つで、相続人の一人が不動産などを取得し、その代わりに、ほかの相続人へ代償金を支払う方法です。
例えば、父親名義の自宅に長男が住んでおり、相続後もそのまま住み続けたい場合があります。
この場合、自宅を売却したり、兄弟の共有名義にしたりするのではなく、
長男が自宅を一人で相続する
長男が次男へ代償金を支払う
という方法を取ることができます。
このように、自宅や事業用不動産を売却せず、一人の名義にまとめながら、ほかの相続人にも財産を分けたい場合に代償分割が使われます。
代償分割は、主に次のような場合に利用されます。
例えば、相続人が長男と次男の二人で、遺産が3,000万円の自宅だけだったとします。
二人が半分ずつ取得するのであれば、一人当たりの取得額は1,500万円です。
そこで、長男が自宅を相続し、次男へ1,500万円の代償金を支払います。
これにより、自宅を売却したり共有名義にしたりせず、長男一人の名義で相続できます。

代償金を決めるには、まず不動産をいくらと評価するかを決めます。
資料が手元にあり、扱いやすいのが固定資産税評価額を基準にする方法です。毎年の固定資産税納税通知書や、市区町村が発行する評価証明書で確認できます。
ただし、固定資産税評価額は、実際に売却できる価格と同じではありません。特に土地の固定資産税評価は、地価公示価格の7割程度を水準としているため、実際の売却相場より低くなることがあります。
例えば、同じ自宅について、
固定資産税評価額:2,000万円
不動産会社の査定額:3,000万円
だった場合、兄弟二人で半分ずつ分けると、代償金は次のように変わります。
固定資産税評価額を基準にする場合:1,000万円
不動産会社の査定額を基準にする場合:1,500万円
固定資産税評価額だけを基準にすると、代償金が実際の不動産価値に比べて低くなり、不動産を取得しない相続人に不公平感が生じる可能性があります。
そのため、公平さを重視する場合は、不動産会社に査定を依頼し、現在の売却相場を確認してから代償金を決める方法が分かりやすいでしょう。
さらに、相続人間で金額について意見が分かれている場合や、後でもめないよう厳密に決めたい場合には、不動産鑑定士による鑑定を検討します。

なお、代償金の額は、必ず法定相続分どおりにしなければならないわけではありません。相続人全員が合意すれば、ほかの遺産やそれぞれの事情を踏まえて金額を調整できます。
代償分割を行うには、不動産を取得する人が代償金を準備しなければなりません。
手元に十分な現金がない場合には、次のような方法があります。
相続が発生する前であれば、生命保険を利用して代償金の原資を準備できます。
例えば、自宅を引き継ぐ予定の長男を死亡保険金の受取人にしておけば、長男は受け取った保険金を、次男へ支払う代償金に充てられます。
これは、自宅や事業用不動産を特定の相続人に残したい場合の生前対策です。
死亡保険金の税務上の取扱いは、保険料を負担した人や保険金の受取人によって異なります。被相続人が保険料を負担し、相続人が死亡保険金を受け取る場合には相続税の対象となりますが、一定の非課税枠があります。
相続人全員が合意すれば、代償金を一括ではなく、数年に分けて支払うこともできます。
ただし、単に「分割払いとする」とだけ決めるのでは不十分です。
まで明確にしておく必要があります。
金額が大きい場合や支払期間が長い場合には、受け取る側を守るため、公正証書の作成や担保の設定も検討します。
相続した不動産を担保に金融機関から借り入れ、その資金で代償金を支払う方法もあります。
実際に、相続に伴う代償金の支払いを資金使途とする不動産担保ローンを取り扱う金融機関もあります。
ただし、融資には審査があり、その後の返済も必要です。不動産の担保価値や収入、年齢などを踏まえ、無理なく返済できるかを確認しなければなりません。
代償分割を行う場合は、誰が不動産を取得し、誰にいくらの代償金を、いつまでに支払うのかを遺産分割協議書に記載します。
第○条
相続人長男○○は、別紙記載の不動産を取得する。
第○条
相続人長男○○は、前条の不動産を取得する代償として、相続人次男○○に対し、代償金1,500万円を令和○年○月○日までに、同人指定の預金口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は長男○○の負担とする。
第○条
相続人長男○○は、別紙記載の不動産を取得する。
第○条
相続人長男○○は、前条の不動産を取得する代償として、相続人次男○○に対し、代償金1,500万円を、次のとおり同人指定の預金口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は長男○○の負担とする。
1.令和○年○月○日までに500万円
2.残額1,000万円について、令和○年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り50万円ずつ、合計20回
長男○○が分割金の支払いを2回分以上怠ったときは、残額を直ちに一括して支払うものとする。
実際の協議書では、支払金額や期間だけでなく、相続人同士の関係や支払能力に応じて内容を調整します。
単に「長男が不動産を相続する」とだけ記載し、その後に次男へお金を渡すのではなく、不動産を取得する代わりに代償金を支払うことを協議書上で明確にすることが重要です。
代償分割をした場合は、代償金を支払う人と受け取る人の双方について、相続税の課税価格が調整されます。遺産分割協議書の内容と実際のお金の動きを一致させておく必要があります。
代償分割を利用すれば、自宅などの不動産を一人の名義にまとめながら、ほかの相続人にも財産を分けることができます。
ただし、単に不動産を取得する人を決めるだけでは足りません。
不動産をいくらと評価するのか、代償金をいくらにするのか、その代償金をどのように準備し、いつ支払うのかまで、相続登記の前に決めておくことが重要です。
吉原合同事務所では、相続登記だけでなく、不動産の評価方法、代償金の額や支払方法まで整理し、その内容に沿った遺産分割協議書を作成します。
不動産を一人の名義で相続することを検討している場合は、遺産分割の内容を決める前にご相談ください。
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